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月夜の迷子たち
第2章 再会
「・・・・実は、兄に君の話をした時、ルーベンスを原寸大で描いてもらおう、なんて言い出して大変だったんだ」
「原寸大・・・・?ルーベンスの!?」
「君の家で見た、あの、聖母が描かれてる」

(聖母被昇天を!?原寸大って・・・確か5M×3Mくらいだったような・・・・)

紗奈はとんでもないと目を丸くした。

「まさか・・・・!」
「あはは。驚くよね?兄にね、君に助けてもらった時の話をしたら、ぜひちゃんとお礼をしなくてはいけないとなって。さすがに原寸大は無理な話だから、肖像画にするといって納得させたんだ」

祐哉が紗奈の方に身体を向ける。
祐哉の瞳があの時のように濡れている気がして、紗奈はどきりとした。

「あの時から、君の事ばかり考えてた。助けてもらったお礼を言いたかったのは確かだけど、単純に君に会いたかった。一言お礼を言って終わり、じゃなくて・・・・」

いつの間にか二人の距離が近づいて、祐哉の膝が自分の膝に触れてしまいそうだった。
紗奈はそっと祐哉から体を離した。

「だからこうして君が俺の家に来てくれたことが嬉しいんだ。君にとっては環境を変えての仕事なんて迷惑な話だと思うけど」
「いいえ、ここは静かだしとても作業しやすいわ。ここまでしてもらって悪いくらい。最初は戸惑ったけど、今は良い経験させてもらってると思ってる。こんなことでもなければ、自分の家から出ることなかったから」

壁にかけてあるアンティークの時計が鳴った。12時だった。

「・・・・・じゃあ、そろそろ帰るよ」
「肖像画はいつから?」
「そうそう、それを言いに来たんだった。明日兄と俊と一緒に打ち合わせに来るよ。よろしく」
「わかりました」

祐哉は何か言いたそうにしていたが、おもむろに電話が置いてあるチェストまで歩くとメモ帳に走り書きして破き、紗奈に渡した。

「これは俺の携帯と部屋の電話の番号。何かあったら連絡して。絵のことでも、家のことでも何でも」

紗奈はなんだかくすぐったいような気がしてメモを受け取った。
耕太としか交流のなかった紗奈にとって、こういうやり取りは新鮮だった。

「じゃあ・・・・・おやすみ」
「おやすみなさい」

祐哉がドアの向こう側に消えると、紗奈はメモをなくさないように手帳にはさんでクリップで留めた。

祐哉が側で見守ってくれているような不思議な気持ちだった。
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