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月夜の迷子たち
第2章 再会
「何言ってるんです。写真もまだですし。予定しているスーツもまだ出来上がっていません。椅子だってちゃんとしたものを用意させますから今日デッサンしても・・・・・」

俊の言葉をさえぎって征哉が言った。

「わかってないなぁ。まずはラフスケッチを何枚も描いて、描く人物の特徴とか構成を考えるんじゃないか。顔の角度とか距離感とか。そうだよね?紗奈ちゃん?さ!祐哉ここに座って。紗奈ちゃん、よろしくね!」

征哉は祐哉を強引に座らせると、何か言おうとしている俊の腕を掴んで部屋を出て行った。

嵐が去った後のように部屋が急に静かになった。

「ごめんね。強引な人で」

祐哉が苦笑して言った。

紗奈はいいえと笑ってスケッチブックを開いた。祐哉は先ほど紗奈が提案したポーズをとる。

「面白いお兄さんね」
「身内にとっては面白いじゃ済まされないほど厄介な人だよ」

紗奈はさっそく鉛筆で祐哉の顔をスケッチした。
リラックスした良い表情をしている。

「こういう時って・・・・・黙っていた方がいい?」
「どちらでも。ラフスケッチだし、自由な感じで。目線だけ私が言った方に向けてくれれば」

鉛筆を滑らせる音が響く。
しばらく無言でスケッチしていたが、それまで表情のなかった祐哉が優しく微笑んだので紗奈は思わず尋ねた。

「どうしたの?なにか思い出した?」
「いや・・・・・・こうして君に描いてもらえるのが嬉しくて。兄の強引さには辟易することの方が多いけど、今日は感謝だな」
「お兄さんと仲が良いのね」
「今はね。小さい頃は全然だったよ。むしろ兄はすごく俺のこと嫌ってて」

紗奈は驚いた。今の征哉からはとても想像できなかった。

「想像できないだろ?いつだったかな・・・・・。小学校入ってからかな。それまで寄るな触るなって感じだったのに、急に可愛がり始めて。何がきっかけかわからないんだけど、それ以降はもうずっとあんな感じ」
「・・・・・あんなお兄さんがいたら心強いでしょうね」
「君は・・・・・確か妹と弟がいたんだよね?」

紗奈の手が止まった。

「ええ・・・・・」

耕太はどこまで紗奈のことを報告しているだろうか。耕太の養子になったことも知っているのだろうか・・・・・。
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