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月夜の迷子たち
第2章 再会
「でも、あまり仲良くないの。もう何年も会ってないから」
「そう・・・・・・」

紗奈は閉じ込めてきた感情が浮かんできそうな気がして再び手を動かした。
話題を自分から反らそうと必死で考えを巡らせた。

「あの・・・・・肋骨を骨折したって言ってたけど、もう大丈夫なの?」
「ああ・・・・・。そっちはもう大丈夫」
「交通事故にあったんでしょう?ご家族はさぞかし心配されたでしょうね」
「兄はとんでもなく取り乱していたけど、母は笑ってたなあ。馬鹿ねえって。父は心配してたかもしれないけど、あまり顔に出さない人だから」

家族の話をしている祐哉の顔は和んで見える。家族が好きなのだなと伝わってくる。

「祐哉さんはご両親のどちらに似てるの?」
「性格で言うと、兄は母に似ていて、俺は父に似ているかな」

紗奈は肖像画で見た祐哉の両親の顔を思い出していた。
目は祐哉も征哉も母親似だったが、全体の雰囲気で言うと征哉は母親で祐哉は父親に似ていると思っていた。

「母も・・・・・まあ、なんていうかパワフルな人でね。たくましいというか。元々この家の使用人だったんだけど、父が気に入って結婚したんだ。大人しいお嬢様としか面識のなかった父には衝撃的だったみたいだね」
「へえ・・・・・・。なんだかドラマチックね。素敵」
「祖父は反対しなかったけど、身分が違うって祖母はすごく反対したみたいで、その話も良く聞かされたな。でも祖母が寝たきりになって、最後まで献身的に尽くしてたのは父や伯父たちじゃなくて母だったから。晩年はすっかり母を娘みたいに思ってたけどね」

こんな風に柔らかな表情で家族について話せるのは、祐哉が家族に愛され、愛してきたからだ。
紗奈はうらやましい気持ちと、苦しい気持ちとで心が重くなるのを感じた。

「素敵なお母様ですね。いつか・・・・・お会いできたらいいな」
「きっと君のことを気に入ると思うよ」

何気なく言った祐哉の言葉で、紗奈は泣きそうになった。

(それならいいけど・・・・・・・)

実の母ですら自分のことを嫌っているというのに・・・・。
自分は祐哉が思ってるほど人に好かれるような人間ではないのだ。
紗奈は黒い感情が沸いてきそうな気がして目を閉じた。

「・・・・どうしたの?気分でも悪い?」
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