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月夜の迷子たち
第1章 鏡の中の世界から
川辺は湿った落ち葉の絨毯になっていて、ずぶずぶと足を取られて歩きにくい。
男は左足を引きずるようにして、それでもなるべく紗奈によりかかるまいと全身に
力を入れて歩いているようだった。

「大丈夫です。私、こう見えて力ありますから」

紗奈は男に遠慮しないように言ったが、男は力なく笑うだけだった。
紗奈は身長も高くないし、腕はか細く、体の線も細い。男にしてみたら頼りなく感じたに違いない。

小屋は川の側面を登りきった場所にある。
ずぶ濡れになった服がよりいっそう男の体を重たくしていた。

ずる・・・ずる・・・・

夕日が山の向こう側に落ちていた。辺りは薄暗くなって月の輪郭がはっきりとしていく。

坂道はどうしても紗奈に体重をかけて登らなくては無理な様子だった。
男の歩みがだんだん遅くなる。はぁはぁと息が上がり、男の肩が上下する。

「あともう少しです。もう少し・・・・・」

紗奈は自分もはあはあと息を荒げながら男を励ました。

いつもはささっと小屋から坂を駆け下りて、清流に水を汲みにくる道が、ひどく長く感じる。

ようやく小屋にたどりついた時にはすっかり日は落ちて、辺りは真っ暗だった。

月が二人の姿をぼんやりと照らしていた。
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