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月夜の迷子たち
第3章 閉じられた扉
紗奈はキャンバスに向かったが、どうも集中できなかった。
先ほどの瑠花のことが頭から離れない。

残りの仕事を早く終わらせたいのだが、いつものように筆がすすまない。

もし本当に二人が結婚の約束をしているなら・・・・・・。

『君が俺のことを想ってる以上に・・・・何倍も強く俺が君を想ってるってこと覚えておいて』

祐哉はどういうつもりであんなことを言ったのだろう。

あんな風に言われたら期待してしまう。
いや、自分はただの雇われ画家なのだから仕事が終われば・・・・・と、あれこれ考えているうちに日が暮れてしまった。

絵はほとんど進んでいない。

時計を見ると7時を過ぎていた。祐哉は帰ってきているだろうか・・・・・。
このまま時間を無駄にするわけにはいかない。
祐哉と話がしたかった。

祐哉の居場所を藤原に尋ねようと屋敷をうろうろしていると、俊にばったり出会った。

「あ・・・・・・」
「どうしましたか?」

紗奈は未だに俊の冷静さが保たれた表情に慣れることができないでいた。どうしても萎縮してしまう。

「あの・・・・・祐哉さんは?」
「今夜は学生時代の友人の家に呼ばれて行っています」
「そうですか・・・・・」

紗奈がわかりましたと頭を下げて帰ろうとするのを俊が引きとめた。

「何かあれば、伝えておきますが」

俊が何か探るような目つきで紗奈を見下ろした。
紗奈は瑠花のことを俊に聞いてみようか迷った。
きっと俊なら詳しいことは知ってるはずだ。

紗奈は今このままアトリエに戻っても作業に集中できないとわかっていたので、思い切って俊に尋ねてみることにした。

「あの・・・・・昼間に瑠花さんという女性の方がいらっしゃって」
「ああ・・・・・はい。それで?」
「彼女は、私のことを・・・・・あまり快く思っていないようで・・・・・」

俊は黙って紗奈の言葉を待った。それが余計に紗奈を萎縮させる。

「祐哉さんの婚約者ということなら、私のせいでお二人が揉めるようなことになったらと思うと・・・・・。やはり自分の家で作業した方がいいのではないでしょうか」

俊は紗奈の言いたいことを理解すると、わずかに頷いた。
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