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月夜の迷子たち
第4章 月下の迷子の手
紗奈はうまく呼吸が出来ず、喘いだ。
ただただ祐哉のキスに翻弄される。
祐哉のスーツの袖をにぎりしめた。

祐哉の舌は熱く、微かにアルコールの香りがした。
自分の舌に祐哉の舌が纏わりつき、首筋にゾクゾクしたものが走る。

紗奈は徐々に抵抗する力を弱め、祐哉を受け入れた。

紗奈が大人しくなるのを待っていたかのように、祐哉のキスが優しくなった。

チュ・・・・チュ・・・・

温室に二人の唇から漏れる音が響く。

祐哉はようやく紗奈の唇を解放すると、切なげに喘いだ。

「好きだ」

紗奈の頬を両手で包むと、じいっと紗奈の瞳を覗き込む。
祐哉の瞳から苦悩が溢れ、紗奈の心を強く揺さぶった。

紗奈の目の奥がじんわり熱くなり、涙が溢れた。

(私も・・・・・・!)

でもそれを口にしてどうする?

紗奈は自分に問いかけた。
今日は祐哉の気持ちに応えられないと言うつもりだった。

一時は辛いかもしれないが、すぐにお互い忘れて、日常に戻るはずだからと言い聞かせて決意したのではなかったか。

そんな決意は祐哉のキスであっという間に流れていってしまった。

紗奈の揺れる心を読み取ったかのように、祐哉は紗奈の二の腕を掴んで体を引き寄せて抱きしめた。

「俺が君から離れて行くように、避けていたの?だとしたら、そんなことは全く無意味だ。そんなことで君を諦めたりしない」

涙を塞ぐ栓はどこかへ行ってしまった。ずっと堪えていた涙が止め処なくあふれ出した。

「怖いの・・・・」

紗奈は嗚咽の合間に振り絞るように言った。
ずっと自分の根幹にあるもの。
少しでも向き合ったら、崩れてしまいそうになるもの。

「私は・・・・親に愛されなかった。人を好きになったら、期待してしまう。もっと・・・・もっと好きになってほしいって。

そして、好きになればなるほど、怖くなる・・・いつかあなたが私のことが嫌になって、去っていってしまったら・・・・?

私のような人間を本当に好きになるはずないって思いながら、本当の本当は愛して欲しくて、自分を必要として欲しくて、去っていかないでって心で叫んで・・・・」

小さくなって震える紗奈の身体を、祐哉は力を込めて抱きしめた。

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