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月夜の迷子たち
第5章 満ちていく心
それが紗奈との出会いだった。
紗奈の家から連れ出されるた後のことは、記憶がなかった。
気がついたら病院のベッドの上だった。

祐哉が目を覚まして、征哉は子供のようにおいおい泣いていた。
海外にいた両親も急遽帰国したようで、二人にはこっぴどく怒られ、会長である祖父は豪快に笑った。俊にも怒られると思ったが、珍しく何も言わなかった。

瑠花も寝ずに看病してくれていたようだ。祐哉と目が合った瞬間スイッチが切れたように気絶してしまい、皆を慌てさせた。

この歳になって、皆を心配させて、何をやっているのか・・・・。
情けなくて恥ずかしかった。

けれど、それよりも・・・・・。

あの時、助けてくれたあの女性。
絹のような髪に、茶色い愛くるしい瞳・・・・。

祐哉を助けようと細く小さな身体で一生懸命抱えてくれた。
華奢な身体の感触が腕から離れなかった。

あの山小屋で一人で暮らしていると言っていた。

あのルーベンスを、彼女が描いたって・・・・・?

祐哉はパリに短期留学していた時、アントワープまで足を運んで何度も原画を見たことがある。
本物と見間違う複製画だった。

もう一度彼女に会いたい・・・・。
その気持ちは日に日に大きくなって、次第に彼女の身を案じるようになる。

あんな山奥に一人でいて、何かあったら?
誰かが襲ってきたりでもしたら?

病院で片時も離れない征哉に、思い切って告白してみた。

征哉はすぐに女性を探し出してくれたが、どうやってお礼をするかで二人はもめた。

「弟の命の恩人なんだ。言い値で払ったっていい。小切手を渡そう」

とんでもない兄の提案に、祐哉は慌てた。
この人なら本当にやりかねない。

そうではなく、一度お礼を言って終わりにしたくない。彼女があの家で一人でいることが気になって仕方がない、と正直に言った。

征哉は祐哉の気持ちを理解したようで、ではすぐに我が家に呼び寄せよう!婚約の準備だ!などというから、祐哉は再び慌てることになる。

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