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月夜の迷子たち
第5章 満ちていく心
彼女に絵を描いてもらうというのを提案したのは俊だった。

報酬としてお礼もできるし、何より、彼女の安全を危惧している祐哉の気持ちを落ち着かせることを優先にしたようだった。
早く回復させるには余計な心配事はさせない方がいいと判断したわけだ。

(俊は、判断を誤ったと思ってるかもな)

祐哉は内心苦笑した。

おそらく俊は祐哉が紗奈にここまでのめり込むと思っていなかっただろう。
いったん祐哉の好きなようにさせて、少ししたら正気に戻るさと思っていたに違いない。
忠実な秘書である彼は、会社や中園の家にとって祐哉がどんな女性と一緒になるべきか慎重に考えているはずで、素性の知れない画家と愛を誓い合うということは選択肢になかったはずだ。愛人にならまだしも。

紗奈が家で絵を描き始めて、明らかに祐哉は変わった。
紗奈が近くにいるというだけで心が弾み、毎日が充実していた。

絵を描いている時の、集中した紗奈の横顔を見ることが何よりの喜びになっていた。
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