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月夜の迷子たち
第6章 恋の炎
レイアは自分が着ていたセーラー服を脱ぐと、ずぼっと紗奈に頭からかぶせた。

「ふむ・・・・やっぱりちょっと大きいか」

ちょっとどころでなく大きいのだが、レイアは躊躇なく袖を二度ほど折り込んだ。
白のロングパンツも裾を何度か折り紗奈の身長に合わせる。
髪は内側に巻き込むようにしてピンで留め、ボブヘアのようにした。

「うん、いいね!かわいい!」

鏡を見ると、ぶかぶかのセーラー服を着た不恰好な紗奈が移っていた。

(ぜ、全然かわいくない!)

レイアはあっという間にネイビーのボーダーセーターと白いパンツに着替えた。
白いチューリップハットをかぶると、抵抗する紗奈を無理やり引っ張り着替え部屋を出た。

ちょうど部屋の前を通り過ぎようとしていた征哉と目が合う。

「おお!?これは・・・・ウィーン少年合唱団!」
「ちがーう!タッジオよ、タッジオ!」

レイアが紗奈の腕を組んでポーズをとる。

「ええー!『ベニスに死す』の?何それ!僕もまぜてよ!」
「もちろん!でも、征哉くんに合うサイズの衣装があるかなー?」
「タッジオは年齢的に無理!『山猫』のタンクレディやる!ちょっとここで待ってて!」

そう言って自分の部屋と駆けていった。

「タンク・・・?」

なんのことか全くわからない紗奈とレイアは顔を見合わせて苦笑した。

「紗奈っち、祐哉くんとは順調?」
「・・・・うん」

紗奈ははにかみながら頷いた。

「紗奈っちはさぁ、祐哉くんと初めて会った時、何か感じた?この人のこと好きになりそう!・・・みたいな」

レイアが珍しく神妙な顔をして尋ねてきた。

「初めて会った時は・・・・・なんていうか、身体のことが心配で必死だったから・・・・。好きとかそういうのはなかったかな」
「そっかぁ・・・・。ねえ、怒りながらキスするって、どういうことだと思う?」
「え??」

紗奈は突拍子も無い質問にどぎまぎした。

「怒りながら・・・・?」

温室での祐哉とのキスを思い出してみる。
初めてしたキスは・・・・普段の祐哉から想像できない強引さだったことを思い出し、かぁ・・・・と赤面した。

「怒ったら普通ほっぺを叩くとか、罵るとか、無視して向こう行っちゃうとか、だよねえ・・・・」

レイアは真剣に悩んでいるみたいだった。
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