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月夜の迷子たち
第6章 恋の炎
俊は最早迷い吹っ切れ、全身でアダージェットに向き合っていた。
感情が高まって盛り上がる部分では、俊の情熱が溢れ出し聴いている人々の心を高みへと誘い、静かで落ち着いたメロディーでは愛しい気持ちで切なくさせる。

俊の奏でる旋律の美しさ、官能的な響きに、聴いている部屋の誰もが言葉を失った。

クライマックスでは愛を大声で叫びながらその絶頂を迎えているかのようであった。
あまりの迫力に紗奈は息をすることも忘れて聴き入った。

俊がやさしい指使いでラストを迎えると、部屋はシーンと静まり返った。

誰かが思い出したかのように拍手をすると、つられて皆が割れんばかりの拍手をし、感嘆の声を上げた。涙している人も何人かいた。
いつの間にか家中の使用人も集まっていたようで、大勢の観客の絶賛の拍手がいつまでも続く。

征哉が俊の肩を抱き、頬にキスせんとばかりに賞賛している。
祐哉にも肩を抱かれ、俊ははにかみながら微笑んだ。少年のように可愛らしい笑顔だった。

紗奈も夢中で拍手した。こんな演奏、一生のうちにそう聴けるものではない。

ふとレイアを見ると、拍手もせずまっすぐ俊を見つめていた。
今まで見たことのない表情だった。
瞬きもせず、まるで何も目に入っていないような、俊だけしか見えていない別世界へいっているような・・・・。

俊を見ると、彼もまたレイアを見つめていた。

君を想って弾いたのだと瞳が訴えかけていた。
愛と苦悩、アダージェットそのものだった。

(やっぱり・・・・小野瀬さんとレイアちゃんは・・・・・)

紗奈の中で確信した。二人は惹かれあっているのだ。

俊は礼儀正しくお辞儀をすると、興奮する観客たちを振り切るようにバイオリンを置いて部屋を去っていってしまった。

余韻を残す中、最後はベニスに死すをスクリーンで上映して締めるということになった。椅子が並べられ、見る人は見て、帰る人は帰るという流れになった。

明かりが消され、カーテンを一部分閉める。
薄暗くなるとスクリーンにはアダージェットの曲と共にベニスの風景が映し出された。

紗奈は先ほどの俊を思い出して素描した。
あの演奏の素晴らしさを絵に表現するなんて無理だ。それでもあの俊の愛するが故の切ない表情を表現してみたかった。
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