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月夜の迷子たち
第6章 恋の炎
「松代さん、隣座っていい?」

気がつくと玲央が前に立っていた。
レイアはいつの間にかいなくなっていた。

「あ・・・・ど、どうぞ」

レイアにはない、玲央の憂いを秘めた近寄りがたい雰囲気に紗奈は緊張した。

「あの・・・・バイオリン良かったです。お疲れ様でした」

玲央は苦笑した。

「ストラディバリウスなんて初めて弾くから緊張して手が震えたよ。音色を楽しむ、とかそれどころじゃなかった」
「でも、即興でやったとは思えないくらいぴったり合ってましたね」
「あの小野瀬さんて人がすごいんだよ。最後のアダージェットなんて、凄かったね。あの人多分プロだったんじゃないかな。レベルが全然違う」

紗奈は驚いた。確かに上手いとは思っていたが、ではなぜ今ここで秘書として働いているのだろう・・・・。

「それ、スケッチブック?」
「あ、はい」

見せてと言って玲央は紗奈のスケッチブックを手にした。

「高校の時、君の絵を見に行ったじゃない?あの時、レイアがいつにも増して興奮して君の絵を褒めてさ。絶対見に来てっていうから行ったんだけど。予想外な絵で驚いた。それまでも写真とか散々俺らは勝手に撮られたりしてたけど、なんていうか・・・・レイアの表面的な綺麗さとか、勝手に頭で作り上げた儚げな雰囲気とかがクローズアップされがちだったのに、君の絵といえば・・・・」
「退屈そうなレイアちゃん、でしたね」

紗奈は思い出して笑った。

レイアは絵のモデルを頼まれ、引き受けたものの、極限的に退屈だったようで、目に力がなく口もへの字口になっていて、早く終わってほしいという雰囲気が溢れ出てしまっていた。
みんなはレイアの美しさを表現しようと必死の中、紗奈だけはありのままのレイアの表情をとらえて描きあげた。それでも、そんな表情が余計に愛らしく見えて、紗奈のレイアを可愛いと思う心情も混ざって魅力のある作品になっていた。

「そうそう、レイアこういう顔するよなぁ!って思わず笑っちゃったよ。てっきり美化されたレイアが描かれてると思ったから、そのまんまのレイアでさ。笑顔でもなく思いっきり退屈そうな顔で。レイアもその時の心情が見事に描かれてると思ったんだろうね。すごく喜んでた」

そう言って紗奈のスケッチブックを広げて指差してみせた。

「例えばこれとか」

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