この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
月夜の迷子たち
第1章 鏡の中の世界から
「俺は全然絵心ないから、尊敬するな。君が好きな絵はどれ?」
「私は・・・・水が描かれているものが好き。『オフィーリア』もだし、『デルフトの眺望』とか、『睡蓮』も」
紗奈は部屋に置かれている絵を指差しながら言った。
「ここに一人で住んでるの?」
男は手に持っていたマグカップをテーブルの上に静かに置いた。
「ええ」
「怖くない?泥棒が来たりとか」
男はいたずらっぽく笑って紗奈を見上げた。
少年のようにかわいらしく紗奈はクスリと笑った。
「怖くないわ。牧場の人や週末だけだけどお隣さんもいるし、絵に集中できるから私にはとても居心地良いの。それに泥棒が来ても盗むものありませんしね。絵はまた描けばいいし」
「君に何かするかもしれない」
「その時は・・・・・」
紗奈はさっと警戒した目を男に向けた。
男が心外だという風に目を丸くした。
「だから、俺は違うって!」
慌てた様子に紗奈は思わず噴出した。
「わかってます。この時期にわざわざ川を泳いでやってくる泥棒さんもいないわよね」
男は柔らかな表情で紗奈を見つめていた。
穏やかな空気が流れ、普段は感じることのない人がいることの安心感を感じた。
ポタ、ポタと何かが床に落ちる音がして、自分が濡れたシャツを手にしていることを思い出した。
「あ・・・・・・!」
急いで暖炉の近くにそれを干す。
「そうだ・・・どこか怪我してるんじゃない!?見せて!」
紗奈は薬箱を取りに行った。こんなもので間に合う傷ならいいのだけれど。
「大丈夫。たいしたことない」
男は腕だけひょいと毛布から出してひじを見せた。
紗奈は近づいて傷を見た。広範囲にすりむいているが、深くはない。
それでもちゃんと消毒したほうがいい。
紗奈は脱脂綿に消毒用のアルコールを含ませると、男の手を取った。
大きいサイズの絆創膏が一枚残っていた。
それを一番血が出ている部分に貼った。
「ねえ、ちょっと描くところ見せてよ」
男が突然そんなことを言うので、紗奈は目を丸くした。
今はそれどころじゃないではないか。
「紅茶を飲んだら迎えを呼んでいいんでしょう?」
紗奈は少し非難を含んだ言い方をした。
「まだ飲み終わってない」
紗奈はカップの中を覗き込んだ。もうあとわずかしか残ってない。
「私は・・・・水が描かれているものが好き。『オフィーリア』もだし、『デルフトの眺望』とか、『睡蓮』も」
紗奈は部屋に置かれている絵を指差しながら言った。
「ここに一人で住んでるの?」
男は手に持っていたマグカップをテーブルの上に静かに置いた。
「ええ」
「怖くない?泥棒が来たりとか」
男はいたずらっぽく笑って紗奈を見上げた。
少年のようにかわいらしく紗奈はクスリと笑った。
「怖くないわ。牧場の人や週末だけだけどお隣さんもいるし、絵に集中できるから私にはとても居心地良いの。それに泥棒が来ても盗むものありませんしね。絵はまた描けばいいし」
「君に何かするかもしれない」
「その時は・・・・・」
紗奈はさっと警戒した目を男に向けた。
男が心外だという風に目を丸くした。
「だから、俺は違うって!」
慌てた様子に紗奈は思わず噴出した。
「わかってます。この時期にわざわざ川を泳いでやってくる泥棒さんもいないわよね」
男は柔らかな表情で紗奈を見つめていた。
穏やかな空気が流れ、普段は感じることのない人がいることの安心感を感じた。
ポタ、ポタと何かが床に落ちる音がして、自分が濡れたシャツを手にしていることを思い出した。
「あ・・・・・・!」
急いで暖炉の近くにそれを干す。
「そうだ・・・どこか怪我してるんじゃない!?見せて!」
紗奈は薬箱を取りに行った。こんなもので間に合う傷ならいいのだけれど。
「大丈夫。たいしたことない」
男は腕だけひょいと毛布から出してひじを見せた。
紗奈は近づいて傷を見た。広範囲にすりむいているが、深くはない。
それでもちゃんと消毒したほうがいい。
紗奈は脱脂綿に消毒用のアルコールを含ませると、男の手を取った。
大きいサイズの絆創膏が一枚残っていた。
それを一番血が出ている部分に貼った。
「ねえ、ちょっと描くところ見せてよ」
男が突然そんなことを言うので、紗奈は目を丸くした。
今はそれどころじゃないではないか。
「紅茶を飲んだら迎えを呼んでいいんでしょう?」
紗奈は少し非難を含んだ言い方をした。
「まだ飲み終わってない」
紗奈はカップの中を覗き込んだ。もうあとわずかしか残ってない。