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炎の薔薇
第1章 偽りのシンデレラ
夫への愛はなくなっても、生まれてきた我が子は愛しくて仕方なかった。
この子には辛い思いをさせたくない。
そう思って懸命に働いてきた。
普通に考えて、化学者と仕出し弁当屋の事務員って不釣り合いだよね。
私には和也のように高い学歴もなければ、飛び抜けた才能もない。
小さな子供を抱えた女が働ける場所も限られた。
それは紛れもない事実。
泣きじゃくる娘を保育園に置いてゆき、フルタイムで働きながら夫の借金を返済していく日々。
働ける、お金が貰える、借金を返し、負担を軽くしていくという現実を選択する以外なかった。
夫からクレジットカードを取り上げ、毎月の返済を遅れる事なく、必死に払い続けていった。
夫も隠していた事が明るみに出た事により、覚悟を決めたかのように真面目に働くようにはなった。
夫自身も独身の頃の気軽さのままではいけないのだと危機感も感じただろうし、可愛い娘の麻央に不憫な思いをさせてはいけないと、親としての責任の自覚も出来たはずだ。
三行半を下して離婚という選択をしなかったのは世間体を気にしたからで、そこまでの度胸もなかった。
私さえ我慢すれば………
我慢が出来たら………
心に憎しみと怒りが同居したまま毎日を必死に生きた。
『もう少し。後もう少し……』
月々の返済を指折り数えながら、自分にそう言い聞かせた。
そう。もうすぐ終わるはずだった……