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炎の薔薇
第12章 悪女の勝算
待ち合わせの場所は上野の丸井前
「そこでいいかしら?」
畏まって、いかにも人を馬鹿にしたようなツンとした声が今でも耳に残る。
大丈夫だと答えると、「じゃあ、そういう事で」と手短に自分の要件だけ話して電話が切れた。
私はその電話の主の顔は知らない。
だが、その主は私の顔をよくご存知のようだ。
探偵社に依頼してまで私の事をよくお調べになり、自分のご亭主との逢瀬の写真まで撮らせた女なのだから、憎しみの眼差しで私が写った写真を隅々まで眺めた事だろう。
私の勤務先まで調べて連絡してきたのも、その主には容易い事だったに違いない。
私は約束の時間通りにその場所に立った。
暫くすると後ろから、「藤代茜さんですね?」と私の名前を呼ぶ声がした。
私は声の方向に振り向く。
一瞬、呼ばれたのは気のせいたのではないのかと疑ってはみたが、相手が自分は何者なのか名乗った事で待ち合わせは無事成功した、
私の想像の中の彼女は、お嬢様育ちのセレブマダムだった。
しかし、そこに立っていたのは、全身を真っ黒でコーディネートした豊満過ぎる女性。
その女性こそ、和也の妻である村雨美代子(むらさめみよこ)。
驚きは隠せない。
髪は伸ばしているようだけど、あまり手入れされてないボサボサ頭。
冬の強い風にあたったせいもあるんだろうが、その髪をかきあげる仕草は、かの有名なホラー映画の井戸から出てくる女くらい不気味だった。
ハイヒールを履いているが、そのヒールが地面に食い込むんじゃないかと思わせるほどの太い足を支えていた。
最初は直視する事が出来ないほど、その風貌にはいろんな意味を含めて圧倒されっぱなしだった。