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炎の薔薇
第13章 炎の薔薇

 村雨美代子と別れてから、無性にタバコが吸いたくなった。
喫茶店に入りたくても、コートの下はキャミソール。

 取り敢えず、デパートに入って適当な上着を探した。
直ぐに真っ赤なタートルネックのセーターが目に入る。

 
 今日はこんな気分だ。
華やかな色を着て、少しでも明るい気持ちを取り戻したい。
嫌な女ね、私は。
嫌な女だけど、あの女の前では弱い姿は絶対に見せたくなかった。

 私だって人間。

 決して、理解や和解などを生まれない場で罵り合い、傷つけ合う事に平気なわけない。

 自分が撒いた種とはいえ、修羅場をくぐるってことは、自分の心も相手の心もズタズタに切り裂き、更に抉って塩を塗り込むようなもんだ。

 それでも本心を曝け出して、本気で相手に戦いを挑まなければならない時もある。


 嫌いなら嫌いでいい

 憎いなら憎いでいい

 だってしょうがないじゃん

 人間は心に湧いてくる感情に嘘はつけないのだから




「お鏡の前で合わせてみてください。
今日、このセーター入ってきたばかりなんです。
お客様にきっとお似合いですよ」

「これ頂きます。
一目惚れなんです。
タグ取って貰っていいですか?
着て帰りたいので」



 真っ赤なタートルネックのセーターは私を温めてくれた。

 本気で愛したからこそ、譲れない思いを正々堂々と告げただけだ。

 薔薇は炎となり、燃え盛り、灰になるまでその恋に身を捧げたつもりだった。

 それでも不倫は絶対悪とみなされる。

 伴侶の気持ちが離れてしまう理由なんて、どうでもいいと言うならば、それを主張して悪足掻きだってしたくもなる。


 例え泥沼に突き落とされたとしても、心に情熱の赤を纏い、棘を隠し、私はこれからも生きていかなければならない。


 

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