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夢の欠片(くすくす姫サイドストーリー)
第2章 中編
「お気に掛けて下すって、ありがとうございます。お陰様で、大分食欲も戻って参りましたのよ」
夫人が話をしている間に侍女がお茶を用意して、男と友人の前に置きました。
「どうぞ、召し上がってくださいな…とは申しましても、御当主様の所から譲っていただいたお茶なのですけど」
夫人は、にっこりと美しく微笑みました。

友人の妻はこの地域では噂に聞こえた美人三姉妹の末娘で、結婚が決まったときには一騒ぎ起こった程でした。
友人に嫁ぎ、程なくして長男を身籠って出産し、今は二人目がお腹に居りました。しかし、薔薇に例えられた美しさは未だに色褪せることなく、むしろ母になった落ち着きで、しっとりした女性らしさが増したようにさえ見ました。

「有難うございます。よろしければ奥様もご一緒にお茶を如何ですか」
「あら」
夫人は少し驚きました。男がそのような事を言ってくるのは、珍しい事だったからです。
「ありがとうございます。でも、せっかくですけれど、残念なことに私はご相伴に与れませんのよ」
「え?」
「ははは。何を言ってるのか、分からないだろ?」
友人はお茶のカップを手に取ると、男に笑いながら告げました。夫人は頬を染め、夫である友人を柔らかく睨んで見せました。

「お前もそのうち分かるかもしれないが、身籠った女の中には、この茶の匂いが合わなくなる者が居るのだよ」
「…匂い?」
「ああ。茶だけじゃないぞ。食べ物やなんかの匂いで、気持ちが悪くなる時期が有る者が居るんだそうだ。そのせいも有って食欲が落ちて、前のときも今回も痩せてしまって、心配していたんだが…そろそろその時期も過ぎるから、食事を取れるように成って来たがな。これからの時期は凄いぞ、食べられなかった分を取り戻さんとばかりに、馬の様に食べ始めるからな」
「まあ!嫌な旦那様!だって、今は逆に、食べないと気持ちが悪くなるのですもの」
「ああ、分かってる、分かってる…お腹の子の為にも、食べられるものは沢山食べてくれよ。お前一人の体じゃないんだ」
仲睦まじい夫婦のやり取りを見ながら、男の中で何かが引っかかりました。

(食えなくなって、痩せる)

(茶の匂いが合わない)

(気持ちが悪くなる)

(…まさか…いや、そんな事は…だが、もしかしたら…)

男は、弾かれた様に立ち上がりました。
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