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夢の欠片(くすくす姫サイドストーリー)
第2章 中編
「…一生外に出られなくてもいいわ。少しでも、近くに居られるなら…貴方に会ってからずっと、そう思ってたの。少しで良いから、近付きたいって…馬鹿な夢だと思ってた」
女は自分の手に重ねられた男の手を、逆にきゅっと握り返しました。

「でも、それが本当になったのね。この子も一緒にだなんて…本当に、夢みたい」
「お前と、それからこいつの為に、出来ることは何でもする。ただ、一つ頼みがある」
「頼み?」
「暮らしに不自由はさせねぇ様にするから、こいつを産んで育てて欲しい。そしてゆくゆくは、こいつを俺の養子にさせちゃあくれねぇか」
「え?」
「こいつを俺の跡継ぎにする。お前からこいつを取り上げる事になっちまうが…こいつが育つ頃にゃあほとぼりも冷めるだろうから、公には無理だろうが内々にだったら、跡継ぎの母親と当主として会うこと位は出来るだろうよ」
「…いいの?どこの誰の子かも分からない子として育つのに?」
「俺も養子だ。問題無え」
「女か男かも、まだ分からないのよ?」
「女であろうが男であろうが、お前と俺の子だぞ?お前と一緒に育てる事は無理でも、親父だと名乗れなくとも、どんな形でも構わねぇから、俺もこいつと暮らして親の真似事をしてみてぇんだよ。…触っても、いいか」
「ええ」
女が頷くと、男はまだ膨らんでもいないお腹を、愛おしそうにそっと撫でました。

「…それに、表向きはどうあれ、本当は血が繋がってんだ。ますます、問題なんか無ぇよ…なあ?」
男がお腹に向かって真面目な顔で同意を求めたのを見て、女は泣き笑いを零しました。

「…ええ、分かったわ…ありがとう…」
「逆だろ。礼を言うのは俺の方だ。俺と出会ってくれて、惚れてくれて、契ってくれて……身籠ってくれて、ありがとうな」
「ううん…本当に、ありがとう…嬉しい…夢みたい…」
「俺もだ。嬉しすぎておかしくなりそうだ」
男は女の唇に、軽く触れるだけの口づけをしました。

「お前が手に入った。その上、ガキまで一緒にだぞ?こんな事が、起こるなんてな……今まで生きて来た中で、一番嬉しい日だし、この先も、こんなに嬉しい事なんて無ぇだろうよ」
男は女の頬に口づけて、それから身を屈めると、お腹に触れている女の手の上から、まだ見ぬ子にも口づけました。

「今日は俺の一生の中で、一番良い日だ」

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