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夢の欠片(くすくす姫サイドストーリー)
第2章 中編
「おはよう…!」
男が深い眠りから醒めると、微笑みを含んだ優しく愛らしい声とともに、頬に柔らかい花弁の様な唇が触れました。

「…おはよう…」
まだしっかり目が開いていない男は、自分を起こした人物を手探りで抱き寄せて、髪に口づけました。すると腕の中から、くすぐったそうな明るい笑い声が聞こえてきました。

「もう明るいわよ?…意外と、お寝坊さんなのね」
「ここ最近、心配事が多くて寝れてなかったんだよ…お陰様で」
「まあ!」
女は男の言葉で、自分が心配を掛けた事が寝不足の原因らしいと気付かされ、少し神妙になりました。男は、そんな様子までもが愛しくて堪らない様に、女を嬉しそうに眺めていました。
「それ、私のせいよね…ごめ」
謝罪の言葉を口にしかけると、男は女をひょいと引き寄せて唇に軽く口づけました。

「その分昨日は、今までに無ぇ位ぐっすり眠れたぞ。お陰様でな」
全て話して隠し事が無くなった昨夜からは、女は男の部屋で過ごすことになりました。今までの逢瀬と様々な事が違っていた昨夜は、二人のどちらにとっても、心も体も満たされる様な忘れられない夜になりました。

「私もぐっすり眠ったわ!目が覚めて全部幻だったらどうしようって思ったけど、ちゃんと本当だった」
女はふわりと微笑んで、男の胸に口づけました。

「こんな風におはようって言える日が来るなんて、思ったこと、無かったわ」
「ああ」
お腹に無理の無い位に緩く女を抱き締めながら、男は柔らかく滑らかな体を、掌で慈しむように撫でました。

「調子はどうだ?」
「大丈夫、とっても良い気分。いろいろ安心したからかしら。お腹空いちゃった」
「そりゃ良い、どんどん空いてくれ。これからは二人分食わねぇと…お前も早く大きくなって出て来てぇよなあ?」
「ふふっ」
男がお腹に触れて話し掛けた手に、女も手を重ねて指を絡ませ、きゅっと握りました。女の指には、男が贈った指輪が飾られておりました。
自害に見せかけて館を離れた時、ほとんど何も持ち出すことが出来ませんでした。けれどこの指輪と母の形見の櫛だけは、服の下に忍ばせて飛び降りたのです。
男は昨日寝床に入る前にその話を聞き、女に指輪を嵌めてやりました。

「…すごく幸せ。一生分幸せを貰った気分よ」
「俺もだ」
初めて共に朝を迎えた男と女の睦み合いは、冬の初めの透明な朝日の中で、しばらく幸せに続きました。
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