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姫巫女さまの夜伽噺
第6章 志摩の過去
志摩の手が伊良の頬に触れ
優しく彼の唇が伊良の唇を包む
それが呪禁だと気付いたのは
唇が離れてからだった。


『だからこそ』


志摩の声が伊良の頭の内側に響く。
伊良はなぜかその声音に切なくなった。


手を伸ばして志摩の耳に触れる。
その瞬間、志摩の思い出のカケラがふと頭の中によぎり
それはよく麻木が志摩にしていた行為だったことが伊良には分かった。


『愛蘭…。だからこそ、俺は…人を…愛しいと思う…。
小さく儚く、大した力も無いくせに一生懸命で
些細なことで傷つき助け合う。
その短い命のとてつもない輝きに
俺は…心を奪われたんだ。

そして、他の神々もそうだ。
人間のその命の燃える美しさと儚さに
神事としてまぐわい、
その一瞬の美しさを己に刻み込んで人々を守ろうとする。
ここは、そういう場所だ、愛蘭…。

俺は、人間が愛しい。
たまらなく、愛しい。
だから、お前も愛しい。
……そして、切ない』

志摩の声が切なく反響して
伊良は涙を流した。


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