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姫巫女さまの夜伽噺
第2章 目覚めし巫女
「だい、じょうぶ…」
「良かった」
にこり、とまたもや青年が微笑むと
その場に爽やかな風が吹いたようだ。
「志摩、まだ何も説明してないよね?」
「説明も何も、まだ起きたばっかりだよ。
その怪我で飛び起きたもんだから
阿保って言ってやったとこだ」
そんな言い方しなくても
と青年が穏やかに笑い
愛蘭の方へと向き直った。
「僕の名前は穂高、彼は志摩。
僕たちはこの温泉旅館の主人の代行をしているんだ」
「温泉旅館…?」
穂高が、そうだよ、と頷き
志摩がふん、と眉根を上げた。
「そう、温泉旅館。
君たち人間とは別世界の住人…。
神様とか、妖怪とか呼ばれている者たちのための宿だ」
神様。妖怪。
愛蘭は夢だと思った。
だから、目の前の穏やかな青年が血の色の瞳を持っていても
獣の耳が生えていても
ちっとも怖くないんだと。
「頭強く打ったんだ…我ながら…ファンタジーな夢だわ…」
思わず声に出てしまい
それを聞いた穂高が目をパチクリさせたあと
クスクスと笑だし
志摩はあきれ顔で深いため息をつく。
「ファンタジーか、それは面白い言い回しだね」
一通り笑い終わってから
穂高が笑いすぎて出た涙を拭きながら愛蘭に向き直る。
「今はそう思っていてもいいよ。
でも、現実は違う。
君はあの雨の中、山を転がりながら
ちょうどできてしまっていたヒズミにはまり込んで
本当に異世界に転がり込んでしまったんだよ」