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姫巫女さまの夜伽噺
第8章 老舗蛞蝓
(…どう言う、事?)
伊良は疑問に思いつつもお客の元へと行く。
きちんと教わったように正座をして、お辞儀をする。
「初めまして」
それだけ言うと、奥から、もぞもぞと何かが動く気配がした。
その数秒後に、のったりとした声がした。
「こちらへいらっしゃい」
言われた通り、伊良はお客の元へと行き
もう一度深く頭を下げた。
「顔をおあげ」
言われて顔を上げると、音もなく目の前に男の顔があった。
一瞬どきっとして、伊良の心臓が止まりかける。
「おや、驚いているようだね。
君が姫巫女かい? 随分と若いね。
どれ、こちらへいらっしゃい」
男はやけに目が離れていた。
そして、ずんぐりむっくりしている。
顔と首の境はなく、にょろり、と顔だけが胴から伸びている印象だった。
(どうしよう…怖い…)
慣れない異形の姿に
伊良の不安が伝わったのか
男はにっこり微笑んだ。
「私が怖いかね?
大丈夫だよ、痛い事しないから。
どうやら、あの癇癪鼠に痛めつけられたと言うのを聞いてね。
こんなお若い人に、私は触れるだけで充分だよ」
柔和な雰囲気に伊良の緊張は少しほぐれた。
言われるまま、彼に近寄る。
すると、伸びてきた手に掴まれて抱きしめられる。
そのなんともいえない、ぶにゅっとした感触に
伊良は慣れなくて体を縮こまらせた。