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姫巫女さまの夜伽噺
第9章 穂高と志摩
「いらないなんて言わないで、ちょっとだけ、僕の提案も聞いてほしい」
穂高はそう言うと、少し深呼吸してから
伊良に向き直る。
「もし、君が望むのなら、人間に戻してあげてもいい」
「え…?」
伊良はびっくりしすぎて
声さえ飲み込んだ。
「待って、どういうこと?
なんで、今更…!?」
慌てて身を乗り出す伊良の肩を掴んで
穂高は彼女を布団へと押し倒す。
「なんで、どうして?」
「戻りたい、伊良?」
穂高の声は穏やかだった。
そこに小川が流れるような、小鳥がさえずるような
なんともいえないゆったりとした空気が流れている。
「今更そんなこと言われても…」
戻りたくないか、と言われれば
それは嘘になる。
あの元彼のことは置いておいても
両親や友人のことが頭をよぎることもあった。
今頃どうしているのか、心配かけていないだろうか。
学校では自分はどうなっているのだろうか。
怖くて携帯電話は見られないまま、引き出しの中。
圏外になったまま、機能さえしない。
そんなことを思うと
伊良の目から込み上げて来るものがあった。