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姫巫女さまの夜伽噺
第10章 人間の世界
「…!」
伊良は驚いて絶句する。
見慣れない顔立ちだったが、妖だということはすぐに分かった。
ペロリと伸ばす舌は長く
肩の上で半身を起こした伊良の頬を舐める。
「…っ、いや!」
ゾクゾクすると不気味な感触に
伊良は思わず退けようとして
みぞおちと先ほど打撲した箇所が痛んでそのまま動けずに固まった。
動きが封じられたおかげで
男はサクサクと前へ進み始める。
「なんで、志摩じゃないと分かった、小娘」
それに答えないでいると
またもや足首からザラザラした手が這い上がってくる。
太ももの内側を撫でられ
伊良の大切なところへと触れる寸前で
伊良は泣き叫ぶように声を発した。
「…志摩は、私のこと名前で呼ぶもの…」
その答えにに男は伸ばしていた手を引っ込めた。
「随分と仲がいいようだな。
しかし、残念だが、志摩は助けにこないぞ」
「どうして?」
伊良の問いかけに、男はにんまりと笑った。
その不気味な笑顔は、今から昆虫を捕食する蜥蜴のようだ。
「今、あの男は穂高の妖力の調律に忙しい。
お前がいなくなったところで、誰も気付きはしないさ」
「そんなことない!
絶対に志摩は来てくれるもん!
っていうか、あんた本当に誰なのよ!
なんで私を連れ去ろうとしてるの?」