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姫巫女さまの夜伽噺
第10章 人間の世界
「名前はわかりますか?」


「岸本…」


「下の名前は分かりますか?」


「あ…い、ら?」


わかるような、分からないような。


「ご自分が、どこで、何をされていたか分かりますか?」


その医者の答えに、伊良は眉根を寄せて考え込む。
思い出せそうで、思い出せない。
思い出そうとすると記憶の底を黒いもじゃもじゃしたものが横切り
思考を断絶させてしまう。


「思い、出せない…」


それからいくつもの問診がされたが
結局、答えられたことは
自分の名字と、実家の住所と、両親の名前だけだった。


「一時的な軽い記憶障害ですね。
しばらくは、安静にしていてください」


医者はぶすっとした顔でそう言うと
病室を去ろうとした。


「あの…」


伊良が声を発すると
浮かせていた腰をもう一度椅子に戻して、医者は向き直る。


「私、一体どうしていたんでしょう?」


「あなたがどこでどうされていたかは分かりませんが…。
あなたは彼氏にアパートから追い出され、行方不明になっていました。
タクシーの運転手が見たのを最後に、あなたの行方は途絶えていました。


そして、警察に届けが出され、捜索が始まりました。
証言が合っていれば、あなたは約二ヶ月もの間
行方が分からなくなっていたんですよ。

幸い、体に異常などはないですし
もう少し休まれて、落ち着いて下さいね。
何も怖いことはありませんから」


医者の言っていることが理解できず
呆気にとられる彼女に向かって
「しばらくゆっくりして下さいね」と医者は病室を去った。


後には、驚くような沈黙と
病院独特の消毒液の匂い
そして、薄いカーテンから見える雨雲だけが残った。
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