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姫巫女さまの夜伽噺
第10章 人間の世界
出された食事は見た目が味気ない。
しかし、出されたものは食べないとと思い
ほんのひとくち、口に含んで伊良は咳き込んだ。



(なにこれ…!)



病院食があまり美味しく感じないとか
味付けが薄くて健康的だとか
そういった問題の味ではなかった。


それは、泥水に浸したパンを
さらに発酵させたのかとでも言うような
吐き気を催す味だった。



(どうしよう、食べられない…)



伊良は、これならと思い
出されたパックのジュースを口に入れたのだが
それさえもむせ返るほどの異臭に
涙ぐみながら咳き込んだ。



(どうしよう、私、おかしい…)




食べ物が食べられない苦痛に耐え
わけがわからなくて混乱する頭で
水だけを流し込むと、ベッドへと横たわった。


幸い、水だけはまだ飲めるようで
こんなにもまずい食事を出したのは
みんなが寄ってたかって騙しているのかと思えてしまう。


そんなことするはずがないと思いながらも
内心どこか引っかかりを感じて
看護師が片付けに来た時には
思い切り寝たふりをしてやり過ごした。


電気を消されても目は冴え冴えしていて
胃も傷も痛んで、ひどい居心地の悪さに絶望しかけた。


その時。


「おや、もう泣いてんのか?」


その声とともに
室内の壁に一匹の蜥蜴が姿を現した。


壁を伝って、彼女の方へと進んで来る。
そうして、視線の先まで来るとにんまりと笑った。
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