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姫巫女さまの夜伽噺
第10章 人間の世界
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「愛蘭見なかったか?」
そう言って志摩が部屋に入ってきた時
双子は縫い物にも飽きてぐうぐうと寝ているところだった。
「え?いや、私たちはここで待っていただけで…」
「どこかに行ったのか?」
「穂高様の所かと。穂高様の式が来て、伊良様だけ行かれましたので…」
「ふーん、そうか。じゃあ、行ってみる」
志摩は少し不審な感じがした。
どうも、宿の中の空気が穏やかではない。
何か、どこか、ちょっとだけずれているような
絵合わせの一枚が合わないような。
何とも言えない違和感を感じつつ
何十にも張られた結界を抜けて
穂高の居る部屋へと足を運ぶ。
「おい、穂高」
引き戸を開けて入ると
そこには布団の上に横たわる美青年が居て
その黒曜石のような美しい瞳で志摩を見つめた。
穂高が布団に横たわる所を
志摩はいまだかつてといっていいほど見たことがない。
驚くを通り越して、死んだかと思って志摩の心臓が止まりかけた。
しかし、志摩の心配をよそに
最高の美男子は瞬きをして口を開ける。
「どうしたの?」
「いや、むしろ、俺がそれを聞きたい…。
寝ているなんて、何百年ぶりだ?」
「僕も分からないよ。
いつぶりだろう、こうして、人間の時に眠るなんて」
「赤飯でも炊くか?」
「やめてよ、まるで小姑みたいじゃないか」