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姫巫女さまの夜伽噺
第10章 人間の世界
そんな軽口を一通り交わした後
穂高が、「で、本題はなんだい?」と言うまで
志摩は驚きのあまりすっかりそのことを忘れていた。


「そうだ、愛蘭見なかったか?
ずっと探してるんだが見当たらなくて。
双子がお前の部屋だっていうから来たんだが」


「僕の所にいたけれど、ずいぶんと前に帰したよ」


「どこにいるんだ?」


志摩が顔をしかめると
結界の外から双子たちの声が聞こえた。
結界の一部を解いて声だけを送る。


「なんだ、居たか?」


「志摩様、大変です!
伊良様の髪紐が落ちていました!」


「は?」


ただならぬ様子に、穂高も半身を布団から起こした。


「伊良様は、言いつけを守る方だから
決して自ら宿の中を歩き回ったりしません!
これが落ちていたのは…睦月の館(むつきのやかた)の、桐壷の間です…!」


それを聞いて、志摩も穂高も目を丸くして、顔を見合わせた。


この宿は宿泊用の十一の建物と
別館である神無月の館、四つの離れから成り立ち
各館に月の名前が付けられている。
そして、各館に四つずつ部屋があり
それが吉方位や六曜などによって、複雑に入れ替わる。


睦月の館は、伊良がいつもいる神無月の館からは遠く離れ
ましてや、一番端の桐壷の間になど、絶対に伊良が近づくはずがない。
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