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姫巫女さまの夜伽噺
第10章 人間の世界

「…これは、まずいな」


そこには、宿とそっくりの湯殿が広がり
そして、そこを抜けると、露天へと続く。
あまりにも精巧に作られたまやかしに
思わずあっぱれとでも言いたくなる。


露天の入り口に松明が掲げられており
そのうちの一つがなくなっていた。


「…水のせいで、鼻も利かない。
こりゃあ、よっぽど愛蘭を欲しいやつの仕業かもな」


「それか、志摩様のことがお嫌いな方の仕業かも」


美濃がぽつりとつぶやき、志摩の背中に冷や汗が浮かぶ。
流れる湯は薬湯のように見えるが
実際の薬湯とは程遠い、別のまがい物でできていた。


「なんなんだ、これは…」


その不気味さに、志摩も背中の毛が警戒に震える。
双子は恐ろしくて、志摩にぴったりと張り付いて離れない。


洞窟を奥へ奥へと進み
水の抵抗が気持ち悪くて志摩がしかめ面をさらにしかめる頃。


「…愛蘭の匂いだ」


かすかに、右の岩から彼女の匂いがした。
よく調べると、若干血の匂いもする。


「…愛蘭…」


この先に彼女はいる。
そう思って志摩はさらに奥へと向かうと
急に洞窟が終わり、ぽっかりと開けた場所へと出る。


「…これは、人間側から見た、この山か…?」


志摩はそこから一歩出ようとして
強烈な吐き気に襲われた。
あまりのことに、その場に思わず膝をつく。
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