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姫巫女さまの夜伽噺
第10章 人間の世界
「志摩様!」
「だいじょうぶ?志摩様」
双子もあわてて志摩に寄り添い
そして、原因であろう、結界の境目から志摩を中へと押し込んだ。
すると、吐き気はみるみる収まる。
「なんだ、今の…」
息をあげる志摩に、近江が悲痛な面持ちで口を開いた。
「おそらく、人間の世界に立ち込める瘴気(しょうき)でしょう。
志摩様は、今は特に山の調律をしている身…。
穢(けがれ)には敏感になっているはずです。
さらに、薬湯にいつも入られていますから
清められた体が、人間界の気に中あてられたのかと。
この先、これ以上向かうのは危険です」
「そんな…」
このたった今、通過してきたまやかしの簡易的な入口が、
おそらく明日には消えてしまうことくらい
志摩には容易に理解できた。
自分が行けない。
すぐそこに彼女が居るのに。
いつの間にか、志摩は人間界と離れすぎていた。
相容れないもの同士が、相容れようとすると必ず衝撃が起こる。
志摩は、それを体で体感した。
「愛蘭は、あいつは大丈夫なのか…」
「伊良様なら今は平気。美濃分かる。でも、放っておくと危ない。
変な奴、伊良様に付きまとってる」
「誰だよ、そいつ…」
志摩はぎり、と奥歯をかみしめた。