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姫巫女さまの夜伽噺
第11章 妖の世界

「………いた」


目を瞑って動かないでいた志摩が
そう声を発したのは
空がだいぶ明るみ始めた時だった。


「東の方角だ。結界が強い…。いや、行ける!」


志摩が目をかっと見開く。
志摩の念が衝撃波となって、相手に届いた。


「…そこだ、見つけた」


志摩は手応えを感じ、そして立ち上がるが
次の瞬間地面に倒れこむように座った。


「志摩様!」


近江が慌てて近寄る。
志摩は全身ににびっしり汗をかいていた。
顔色は悪く、消耗しているのが目に見えてわかる。


「大丈夫だ。悪い、こんなことで倒れこむなんて…」


「いや、志摩、充分だよ。
僕にだって、その技を使うのは難しいのに
それを使い続けて、なおかつ山の調律もしているんだから…。


東の方向だね?
もう少し、わかるかい?」


それに志摩は頷く。


「あいつの拘束を、狐火で解いた。
その破片の波動を辿れば、たどり着く。
…行けるか、穂高」


「うん。行って来るよ。
美濃連れて行くね。
今の僕じゃ、破片の波動をたぐるほどの余力がないから。
美濃、来れるね?」


「うん、大丈夫。行こう」


そうして、二人が結界の境界線をまたぐ。
地面が、かすかに揺れ動いた。


「ごめんよ、彼方の世界。
少しだけ、僕を受け入れて欲しい」


拒絶反応に、空気がビリビリと振動する。
しかし、強引にも穂高はもう一歩踏み込んだ。


「こちらにも、たまには事情があるんだよ。
悪いけど、今は論議していられない。
文句は後で聞くから、まずは僕を受け入れろ。
僕は、今は人間だ!」


穂高の叫びに、風と振動が収まる。
彼方の世界が、強引な穂高に対して押し黙ったのだ。


「行って来るよ、すぐ戻るからね!」


「頼むよ、穂高…あと、近江、少しだけ…」


志摩はそう言うと
ふと意識を落とした。
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