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姫巫女さまの夜伽噺
第11章 妖の世界


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目を瞑っていた伊良は、外の騒がしさに起こされて
自分が眠っていたことに気づいた。


身体中は気だるく
鉛以上に重たい。


張られた結界は薄ぼんやりとベールを作り
本物の伊良がいるベッドは人間からは見えない。
昨日のひどい参事の跡もそのままなのに
結界の向こうでは元気そうな伊良の幻がベッドに座っていた。


手足の傷が、吸い込む空気に混じる消毒液の香りが
ここが人間の世界であり、そして、昨晩の出来事が
事実であったことを物語っていた。


朝の回診の時間か、朝ごはんの時間なのかわからないでいると
そのうちにひそひそ声が大きくなり
だんだんと近づいてきた。


「こっち、こっちだよ!」


その可愛らしい声に
伊良は全身が震えるような安堵を覚えた。


「こっちだよ、穂高様!」


そうして駆け出して来る足音。
伊良はたまらなくなってベッドから立ち上がろうとして
足の痛みによろけて転びそうになった所を
「おっと、危ない」という爽やかな声に抱きとめられた。


「見つけた、伊良」


「…穂高…!」


ばちん、と結界が破ける。
そのベールのような結界から穂高が現れた。


伊良は思わず泣きながら穂高に抱きつく。
穂高は彼女を抱きとめると
強く強く抱きしめる。


そのあまりの懐かしさに
伊良の目からぼたぼたと涙が溢れた。
まるで、夢を見ているようだった。
それとも、昨日のことが夢なのか。


懐かしい穂高の感触に
そして、横を見ると、美濃がにこにことしている。


「美濃!」


「伊良様!」


美濃も抱きしめ、三人で抱き合う。
この懐かしくて柔らかく、暖かな感触に
伊良の心はほだされ
二度と手放したくないと心から思った。
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