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姫巫女さまの夜伽噺
第11章 妖の世界
誰も居なくなった結界の外で
朽葉は手に握った伊良の髪の毛を握りしめながら
ワナワナと怒りに震えた。


「志摩…! 許さん!」


そして、自らも結界の中へと飛び込んだ。



**********


「志摩、志摩!」

伊良は志摩の感触を確かめる。
志摩も、嫌という程に伊良を抱きしめた。


「愛蘭…よかった…」


「伊良様、ご無事で何より!」


近江も駆け寄って来る。
しかし、美濃が険しい顔をしたまま
結界の外を見つめて居た。


「まずい、こっっちくる。
早く、みんな!」


そうして駆け出そうとしたところで
穂高が「いや、焦らなくていい」と呟いた。


顔に両手を当てて、穂高は起き上がる。
そして、手を外すと
みるみるうちに黒曜石の瞳が紅く染まった。


「…満月は過ぎた。僕は、こちらの世界では、山の神だ」


穂高がそう言い終わって、結界の前に出ると
勢いよく朽葉が飛び込んできた。


「志摩!穂高!よくも、よくも…っ!」


「申し訳ないけど、もう、僕の力は戻ったよ。
ここで消しとばされたくなければ、訳を宿で聞くから黙ってついて来るかい?」


「け。何偉そうぶりやがって!」


「あのね、僕は今猛烈に腹を立てているんだ。
聞かないなら、どうなっても知らないよ?」


「ほざけ小僧!」


朽葉が穂高に襲いかかろうとした瞬間。
穂高はやれやれという顔で指で妻弾く。


「ぎゃあ!」


醜い声をあげて朽葉はその衝撃をくらい
そしてみるみるうちに、シュルシュルと縮んでいくと
小さな蜥蜴の姿になった。


「隠し事は無しだ。吐け」


穂高が朽葉の生えて居ない尻尾をつまんでゆさると
お腹が膨らみ、そしてそれが動き出して喉にまで来る。


「ぅぉえっぷ!」


そして、朽葉は真っ黒な六角形の塊を吐き出した。


「ふーん、これが、今回の君の妖力を倍増させて居たものの正体なんだ?」


「穂高様、結界が崩れます!」
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