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身代わりの夜
第9章 盗み聞きオフィス
 その時である。

 突如、ケータイの着信音が響きわたる。
 心臓がとまるかと思った。

「あら。出てもいいわよ」

「あ。すいません……こんなときに誰だ、いったい」

 山野辺がケータイを確かめている隙に、啓太はドアを細く開け、さっとエレベーターホールに抜け出した。
 事務所で山野辺の声がする。

「……ちょ、ちょっとだけ……すぐ戻ります」

 小走りにこちらに近づく気配に、啓太はあわてた。
 観葉植物の鉢植えの陰にしゃがみ込むのと、事務所のドアが開くのが同時だった。

「なんだよ……突然どうしたの?
 え? いや、今、会社だけど」

 山野辺は携帯を手で囲い、低い声で話している。

 どうやら亜沙子に知られたくない相手のようだ。
 恋人のひとりなのかもしれない。何か揉めていた。

「こ、困るよ。突然、そんなこと言われても……
 ちょっと待ってよ……今すぐって、無理だって……
 お、おい……ああ、切られちゃった。くう、どうしよう」

 周りを見まわした山野辺の視線が、鉢植えの陰にしゃがんだ啓太の上でとまった。
 両目が大きく見開かれた。
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