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身代わりの夜
第9章 盗み聞きオフィス
 とんでもない依頼だった。
 梨華のことなど頭から吹っ飛ぶ。

「大丈夫だって。
 目隠しした方が昂奮するからって、アイマスクをしてもらってるんだ。
 気がつきっこない。
 いつものように代役、頼まれてよ」

 拝むように両手を顔の前で合わせる仕草は、仕事の手助けを頼む時と変わらない。
 そんなことを悪びれずに要求する同僚にあきれ返る。

「ふざけるな。エッチの身代りなんて、課長に失礼じゃないか。
 断る。帰るぜ」

「まてよ。
 いいのか、おれがこの前のこと、ばらしても」

 山野辺の眼が細くなった。
 口元に不吉な笑みが浮かんでいる。

「……な、なんのことだよ」

「マナベの接待の後で送っていった時、お前、貴野課長とヤッただろ」

 突然の指摘に、啓太は口をぱくぱくさせた。
 言葉が出てこない。

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