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身代わりの夜
第13章 出張夜の部下指導
 今日も朝から、ブランド・コンセプトを説明する亜沙子の隣りで、啓太はカタログや試供品を配っていた。
 村木が近づいてきたのは、そんな折だ。

「ずいぶん賑わっているじゃないか。
 さすがは貴野だ。やることにそつがない。
 会場の設営といい、商品のコンセプト・アピールといい、見事なものだね」

 前からの知り合いとはいえ、口調が馴れ馴れしすぎた。
 しかも、どこか毒が含まれているようなのが気になる。

 啓太は頭を下げた。

「わざわざいらして頂いて、ありがとうございます」

「たまたま関西方面に用があってね。
 ブランシュのイベントがあるというので、ちょっと寄ってみた」

 男の片頬に皮肉な笑みが刻まれた。

「だけど、きみも大変だよねえ、こんな女の下で。
 彼女、人使いが荒いだろ。
 毎日、へとへとになるまでこき使われてるんじゃないのか」

「いえ……」

 通常なら冗談で済むような会話だが、「こんな女」という言葉がそれを阻む。
 どう返せばいいのか困惑した。
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