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身代わりの夜
第13章 出張夜の部下指導
 ちらっと上司の顔色をうかがう。
 村木に向けた顔が強張り、淡いピンクのブラウスの胸が、膨らみを強調して不穏に上下していた。

 その様子に村木が、ふふん、と鼻を鳴らした。
 亜沙子の耳元に顔を寄せたが、囁く声は横にいる啓太にもはっきりと届いた。

「タマッてるんじゃないのか。
 今夜、相手してやってもいいんだぜ」

 亜沙子が手に持った資料をぐっと握りしめるのがわかった。

 今度は啓太の方に屈みこむ。

「知ってるか?
 こう見えてこの女、ベッドじゃとんでもない乱れようなんだ」

 首の後ろの毛がざわめいた。
 清潔感のある好男子が言うと、台詞に込められた悪意が、なおさら生々しく伝わってくる。

 啓太はごくりと唾を呑み込んだ。
 怒りをおさえ、つとめて冷静に言った。

「ぼくは貴野課長を尊敬してます。
 おかしな当てこすりを言われるような人じゃありません」

 村木はあっけにとられた顔になった。
 次の瞬間、楽しそうな笑い声が弾けた。

「こりゃ参った。貴野もいい部下を持ったものだ」
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