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身代わりの夜
第13章 出張夜の部下指導
 その時、会場の奥で声がした。

「あっ、村木さーん。
 いつもお世話になっています」

 山野辺が小走りにやって来るのを待たずに、村木は啓太にウインクし、手を振って会場を去って行った。

 山野辺は後ろ姿を見送りながら、

「あれえ。村木さん、どうしたんだろう」

 啓太は溜めていた息を、ふうーっと吐いた。
 おそるおそる亜沙子に眼をやると、目元を染めて、こちらをにらんでいた。

 啓太はあたふたしながら、

「あ、あの……失礼な奴でしたね。
 課長のプライベートなことまで」

 亜沙子はハッとして、啓太の視線を逃れるようにそっぽを向いた。
 目元から頬にかけて、さらに強く血の色が浮かんだ。

「そんなことはどうでもいいから、ちゃんと仕事に集中しなさい。
 古森くんこそ、さっきの言い方、大切なお客様に失礼だったわよ」

 小声ながらも、きつい口調で早口に言われた。

 確かに亜沙子の言うとおりだ。
 大事なイベントの最中である。

 啓太は気を引き締め、来客に向けて明るい笑顔を振りまいた。


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