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身代わりの夜
第15章 これっきりラブホテル
「ばかね。きみが落ち込んでどうするの」

 ウェイトレスを呼んで、グラスワインをふたつ頼んだ。

「じゃあ、ふたりの別れに乾杯」

 気が進まなそうな啓太に、グラスを押しつけて、チンと合わせる。
 半分ほど一気に飲んだ。
 それを見て、啓太もあわててグラスを傾ける。

 梨華は悪戯っぽい視線を啓太に向けて、

「貴野課長のこと、そんなに好きなんだ」

「え?」

 眼をまん丸にして驚く表情が可愛かった。

「わかるわよ、それくらい」

 ワインをもうひと口飲みながら、片頬笑む。
 自嘲的な感じではなく、余裕の雰囲気に見えて欲しかった。

(だって、きみが亜沙子さんに向ける眼つきといったら)

 社内で何度か目撃した情景を思い浮かべる。
 廊下を颯爽と歩く上司の後ろを、小走りで追いかける姿。
 会議で役員たちにプレゼンする課長を、うっとりと眺める表情。

 他の者にはわからなくとも、梨華はすぐにピンときた。

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