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身代わりの夜
第16章 おわかれエクスタシー
 啓太の心にまだ迷いがあることに気づいていた。
 だからこそ、最後のチャンスに掛けようと、こうしてホテルに誘ったのだ。
 今さらに己の本心に気づく。

(そんなあさましい未練なんて、すっぱり捨ててしまうの)

 未練たらしく執着して、大切に思う青年を惑わしてはならなかった。

「亜沙子さんは、啓太の気持ちに気がついてないんでしょう」

「……たぶん」

 自信なさげに口ごもる様子は、最初の夜の啓太を思い出させた。
 つい先ほど、野獣となって梨華を貪っていた男とは別人のようだ。

「オフィスや出張先で、峻の身代りをしたってことも?」

「気がついてないと思います」

「全部、正直に打ち明けるの。わかった?」

 青年の眼に動揺が走る。

 梨華は啓太の顔を引き寄せ、頬を撫でた。

「しっかりしなさい。
 わたしを振っときながら、亜沙子さんをものに出来なかったら、許さないわよ」

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