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身代わりの夜
第17章 強引純情部下
「古森くん……どうしてそれを」

「すいません。さっき、電話で話しているのを聞いちゃいました。
 これからホテルで権堂部長と会うんですよね。
 それって……に、肉接待ってやつじゃないんですか」

「馬鹿なこと言わないでっ」

 亜沙子は尖った声を出した。

 言葉にされると、いかにも禍々しい響きである。
 自分がしようとしている行為の下劣さを突きつけられた気分だった。

「だって、こんな時間にホテルですよ。
 他にどんな理由があるっていうんですか」

「もう一度、先方と打ち合わせするだけよ。
 行かないと、今回のプロジェクトが失敗するかもしれないの」

「そんなことありません。
 みんなでがんばれば、なんとかなります」

 椅子から立ち上がり、身を乗り出して力説する。

 真摯な口調に胸を突かれた。
 一瞬、信じたくなった。

 けれど、希望的観測に自らの将来を賭けることはできない。

 村木と権堂の意図は明らかだ。
 亜沙子が欲しいのである。
 今回、うまくかわしたとしても、この先なにかと難癖をつけてくるだろう。

 今、身体を差し出せば、逆に相手の弱みを握ることにもなる。
 そのくらいの計算は出来ていた。

 取りかえしがつかなくなる前に、懸念の芽を取り除く必要があった。

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