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女社長 飯谷菜緒子
第11章 禁断
ビールやワインを数杯飲むとふたりはカフェを出た。

「あなたのような立派なご子息を遺されて、翔也もそれなりに幸せだったのだな。よかった」と菜緒子は翔也を思って優しい顔をする。

「あたしも翔也も一生懸命に生きた。だが、巨大な運命に流されてしまった。あの頃のあたしたちは巨大な運命を前にしてはあまりに無力だった」

翔也たちとの思い出に浸っていた菜緒子は急に咳こんで少し血を吐いた。

「お、お義母様・・すぐに救急車を呼びます」

菜緒子は慌ててスマホを取り出して救急車を呼ぼうとする雪雄の手を握って発信を止めた。

「大事ない、いつもの発作だ。少し休めば何ともない」

病院は嫌だ、救急車も嫌だという菜緒子に押し切られてすぐ近くにあったラブホテルで少し菜緒子を休ませることにした。
奇しくもそこは菜緒子が景嗣の悲劇を目撃してしまい、一度だけ景嗣と関係をもったあのホテルだった。

「まだ居てくれたのか、すまぬな、迷惑をかけた」

少し眠って目を覚ました菜緒子は雪雄の顔を見て安心したように目を閉じる。

「翔也、翔也・・」

そして再び目を開いた菜緒子は翔也の名前を呼んで雪雄を抱きしめた。抱きしめられてドギマギした雪雄だったが、衝動が抑えられなくなってキスをしてそのまま菜緒子に覆い被さった。

菜緒子に付き添っている間雪雄はずっとドキドキしていた。どことなく母親に似ているこの女性を好きだと思った。

彼女は父親の愛した女性、ましては婚約者の母親なんだと言い聞かせて何度も想いをかき毛そうとしたが、好きになる気持ちはそんなに簡単に消せるものではなかった。

まるで父親が乗り移ったかのように菜緒子への想いが溢れてくる。

そんな状況の中菜緒子に抱きつかれてついに雪雄は理性を失って想いを全うしてしまった。

事を終えて冷静さを取り戻した雪雄はとんでもないことをしでかしてしまったと震えた。

「な、なんということを・・申し訳ありません」と雪雄は裸のまま土下座をした。

「謝らないでおくれ。頭を上げて・・悪いのはあたしの方なんだから」

「い、いえ・・お義母様は病の中最愛の人の幻を見たのです。そこにつけ込んで私は・・」

「翔也に抱かれたいという夢が叶ったのです。ありがとう、そしてごめんなさい。もう思い残すことはありません」

菜緒子は穏やかな顔で雪雄を抱きしめた。




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