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女社長 飯谷菜緒子
第3章 婚約
居間側重工の御曹司、真次はただのお坊ちゃんではなく経営能力に長けた男であった。
亀井戸専務の後を継いで専務として経営手腕をバリバリと発揮するのだが、技術を担っていた亀井戸専務がいなくなったことにより、技術は彼や先代社長が育てた下請たちに頼るところも多くなった。
専務となった居間側真次が得意とするのは営業や経営面であり、元々それを担っていた敦賀常務とは度々意見が対立した。
透真は推薦入学を受け入れて遠くの街へ行くことを決めたのを後悔していた。
遠くの街へ行くのを決めたのは菜緒子と翔也の幸せな姿を近くで見ているのが辛かったから。
翔也がこんなことになるのなら透真が遠くへ行く理由はなくなった。しかし、今更推薦入学の話を断ることができるはずもない。
せめて菜緒子に自分の想いを伝えようと決心してはみたものの、あんな形で最愛の翔也と離れ離れになってしまった菜緒子の気持ちを察すると言い出せずにいた。
そんな状況で日々が過ぎていく中、透真や菜緒子が中学三年生になった時に事件は起きた。
居間側重工から菜緒子が16歳になって結婚できるようになったら真次と結婚しようと婚約話を持ちかけてきたのだ。
明らかに飯谷工業を乗っ取って自由にするための工作である。
父重盛は娘の気持ちも尊重したいと一旦は返事を保留したが、そんなに待ってはもらえない状況なのはよく分かっていた。
断ればあの手この手を使って飯谷工業の乗っ取りを画策してくるだろうこともよく分かっていた。
それでも、娘には思いのとおり生きてもらいたいと願う両親から会社のことは考えなくてもいいから自分の幸せを優先してもいいと言われて菜緒子は揺れていた。
思いのとおり生きるのならここから逃げ出して翔也の元へ飛んでいきたい。しかし、風の噂によると翔也たちは母の実家でも受け入れてもらえずに落ちぶれて行方知れずになってしまったとのことだ。
何とか翔也を探し出して一緒に暮らしたいというのが奈緒子の望みなのだが、飯谷工業を飛び出せばあまりに無力な自分には到底なし得ないことも分かっていた。
愛犬ジローの散歩をして気がつくと菜緒子は翔也が去って行く時に初めて口づけをした木の下に立っていた。
「あたしは、どうしたらいいのかな?」と菜緒子はジローに語りかける。
ジローはただくうんと鼻をならして嬉しそうにしている。
亀井戸専務の後を継いで専務として経営手腕をバリバリと発揮するのだが、技術を担っていた亀井戸専務がいなくなったことにより、技術は彼や先代社長が育てた下請たちに頼るところも多くなった。
専務となった居間側真次が得意とするのは営業や経営面であり、元々それを担っていた敦賀常務とは度々意見が対立した。
透真は推薦入学を受け入れて遠くの街へ行くことを決めたのを後悔していた。
遠くの街へ行くのを決めたのは菜緒子と翔也の幸せな姿を近くで見ているのが辛かったから。
翔也がこんなことになるのなら透真が遠くへ行く理由はなくなった。しかし、今更推薦入学の話を断ることができるはずもない。
せめて菜緒子に自分の想いを伝えようと決心してはみたものの、あんな形で最愛の翔也と離れ離れになってしまった菜緒子の気持ちを察すると言い出せずにいた。
そんな状況で日々が過ぎていく中、透真や菜緒子が中学三年生になった時に事件は起きた。
居間側重工から菜緒子が16歳になって結婚できるようになったら真次と結婚しようと婚約話を持ちかけてきたのだ。
明らかに飯谷工業を乗っ取って自由にするための工作である。
父重盛は娘の気持ちも尊重したいと一旦は返事を保留したが、そんなに待ってはもらえない状況なのはよく分かっていた。
断ればあの手この手を使って飯谷工業の乗っ取りを画策してくるだろうこともよく分かっていた。
それでも、娘には思いのとおり生きてもらいたいと願う両親から会社のことは考えなくてもいいから自分の幸せを優先してもいいと言われて菜緒子は揺れていた。
思いのとおり生きるのならここから逃げ出して翔也の元へ飛んでいきたい。しかし、風の噂によると翔也たちは母の実家でも受け入れてもらえずに落ちぶれて行方知れずになってしまったとのことだ。
何とか翔也を探し出して一緒に暮らしたいというのが奈緒子の望みなのだが、飯谷工業を飛び出せばあまりに無力な自分には到底なし得ないことも分かっていた。
愛犬ジローの散歩をして気がつくと菜緒子は翔也が去って行く時に初めて口づけをした木の下に立っていた。
「あたしは、どうしたらいいのかな?」と菜緒子はジローに語りかける。
ジローはただくうんと鼻をならして嬉しそうにしている。