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第3章 婚約

「くそ～、ハメられた、亀井戸をハメるのには散々尽力してやったのに、これが居間側のやり方か」

敦賀常務は狂気に満ちた顔をして怒り狂った。

「どういうことだよ、翔也のオヤジさんをハメたって」

亀井戸をハメたという言葉は透真には聞捨てならなかった。透真は父親にくってかかる。

「お前のせいだ、あの女のことは諦めたんじゃなかったのか。お前さえ余計なことをしなければ」

父親は逆ギレして透真を殴りとばす。

翔也が菜緒子と結婚の約束をしたことを知った居間側は何とか亀井戸専務を追放して翔也を消したいともちかけてきた。

敦賀常務は亀井戸専務をハメる役を引き受けた。キャバクラやスナックに行く程度だが女好きである亀井戸専務の隙を突くのはたやすく、亀井戸専務はまんまと未成年の少女を利用したハニートラップに引っ掛かったのだ。

それが今度は敦賀常務がハメられようとは。
透真と菜緒子の逢瀬が居間側に知られたのだ。透真を真次と菜緒子の結婚を脅かす邪魔者と判断した居間側は今度は敦賀常務をハメることを画策してきたのだ。

「おのれ、よくも翔也のオヤジさんを・・汚い、汚すぎる、今回のことは汚いことをした報いが回ってきたんだ」

透真は翔也が去っていった時の菜緒子の悲しげな顔を思い出していた。あんな菜緒子は見たくなかった。それに菜緒子は今でもまだ翔也を想っている。

だから父が翔也の父親をハメたことは許せなかった。思い付く限りの悪口雑言を並べ立てて父親を責め続ける。

父親はまるで時代劇に登場する悪代官のような悪い笑みを浮かべる。

「お前は儂に似ている、必ず同じような道を辿るだろう」

「誰が辿るもんか、そんな汚い道を」

透真はいつになく激しく感情を剥き出しにして怒鳴る。


「人は多かれ少なかれ汚いことをしなければ生き抜けない、それが人の社会というものだ・・」


多かれ少なかれ汚いことをしなければ生き抜けないという父親の言葉は透真の心を激しく打った。
菜緒子だって翔也への愛を貫くために居間側真次との政略結婚を逆に利用しようとしている。

本人の口から聞いたわけではないが、あの決意に満ちた目を見れば考えていることぐらい分かる。


本当に好きな男を想いながら好きでもない男に抱かれる菜緒子も、それが分かりながら何もできない自分も汚く思えた。