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女社長 飯谷菜緒子
第3章 婚約
どうせ汚くなければ生き抜けないのならば、菜緒子のためならどんな汚いことでもしようと透真は思っていた。

こうして透真も菜緒子の前から姿を消した。

亀井戸も敦賀も失ったショックが大きかったのか敦賀がいなくなってすぐに菜緒子の父重盛は病に倒れた。

菜緒子は単身居間側真次に会って縁談を受けることを伝えた。ただし、父も病に倒れてどれくらいもつか分からない今、結婚した暁には自分を社長にすることが条件だと言い放った。

亀井戸専務を陥れたのも、敦賀常務を陥れたのも陰で居間側が手を引いていることは去り際に透真から聞いて分かっていた。

菜緒子は眼光が鋭い。
その鋭い眼光で、何もかも分かっているという目つきで睨まれて真次はビビっていた。

しかし、まるで侍のように強く鋭い眼光に真次は惹かれた。イニシアティブは完全に菜緒子が握って、一流大学まで出た真次はまだ中学生の菜緒子にタジタジでしどろもどろになる。

「どうしても社長になりたいのですか?」

「はい。あなた様の妻として、飯谷工業の社長としてますます盛りたてていきたく思います」

「そこまで望まれるのでしたら僕に異存はありません。ママがいいと言えばあなたを社長にいたしましょう。僕もママを説得してみます」

たじたじで、所々噛みながら真次は答えた。

このおどおどした態度、そして母親のことをママと呼ぶ物言いに菜緒子は目の前にいる男はマザコンなのだと思い頭を抱えた。

真次の父親である居間側重工の社長も今ではすっかり病弱になってしまい、実権は妻である真次の母親が握っていた。

真次からどうしても菜緒子と結婚したいから菜緒子を社長にする条件を飲むと相談された母寿子は菜緒子とふたりでの面会を所望した。

真次は女などには全く興味がなく、菜緒子との縁談もいやいや母親の命に従ったまでの気が進まないものであったが、男勝りで強い菜緒子に会ってみたらすっかり彼女に惹かれていたのである。

寿子が真次と菜緒子との縁談を画策したのは飯谷工業を手に入れたいという狙いがもちろんだが、女子に全く興味を示さない真次でも菜緒子のような男勝りな女子なら或いはという狙いもあり、この点は見事に成功したのだが、まさか自分を社長にしろとは男勝りにも程がある。




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