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女社長 飯谷菜緒子
第8章 愛人契約
ひとつは真次と同じ血液型の男に種を注いでもらって子を宿すこと。これはついに口に出すことはできなかった。

もうひとつは真次の種を人工的に注いでもらうこと。
これは真次にも伝えたが、真次はきちんと夫婦の事を致して子を作りたいと頑張ってくれた。

もしかしたら信彦の妻も自分と同じようなことを考えて行動に移したのではないかと菜緒子は思っていた。種がないことを信彦が知れば深く傷つくと思って内密に事を起こしたのではないだろうか。まさか信彦が検査を受けて自分に種がないことを知ったなど夢にも思っていないのではないだろうか。

菜緒子の話を訊いて信彦はハッとした。
信彦に種がないことを知った妻が信彦を傷つけないために他の男と・・。
そんなことを考えたことは一度もなかった。

「儂は・・きちんと妻と話をすれば良かった」
と信彦は愕然とした。

結婚しても子ができずに焦っていた時期もあった。焦っていることを妻に知られぬように、子供なんてのは天からの授かり物だからそねうち授かることもあるだろうと呑気に振る舞ってみせていた。

あの時に妻はひとり病院に行って子ができない理由が信彦にあることを知ってひとりで背負い込んだのであろう。

なんで一緒に病院に行こうとしなかったのか。一緒に真相を知れば夫婦ふたりで考えることもできたであろうに。

信彦は裸のまま大粒の涙を流して泣いた。
ひとりで背負い込んで他の男に抱かれた妻もどんなに辛かっただろうと思うと涙が止まらない。

菜緒子は裸のまま信彦を抱きしめてあげた。

「ありがとう、菜緒子殿。菜緒子殿に出会わなければ、そのような考えは一生なかったことじゃ」

愛する夫は男色で夫婦の事は子を宿した時のたった一度だけ。菜緒子も女として辛い人生を生きている。そんな菜緒子だからこそ妻の心情も分かったのだと思う。

「妻や子ときちんと向き合ってみようと思う。それなのに勝手なことを申すが菜緒子殿とのことを今夜限りで終わりにしたくはない」

かなり緊張した口調で信彦は菜緒子への想いを伝えた。

「御安心ください。私もあなた様をお慕いしております。いつでもお側に参りますわ」

「おおっ、菜緒子殿、ありがとう」と信彦は子供のようにはしゃいだ。

風呂を上がって少しビールを飲んでまたいろいろなことを語り合った。

そして床に入るなり信彦は菜緒子を求めてきた。
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