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女社長 飯谷菜緒子
第10章 志乃と景嗣
「完璧な作戦だ」と龍二は感心する。

「しかし・・」

龍二には懸念があった。元々は政略結婚で無理矢理結婚させるようにした景嗣の親である。下手をすると悪妻に他所で子供を作るようなことをさせるなんて甲斐性なしなどと怒り出してマツシタの会社を追われるようなことになりかねない。

そのことは菜緒子も考えていた。


「その時は居間側で面倒を見るさ」と菜緒子は笑った。

「なる程ね。その方が先生にとっても幸せかも知れないな。面倒を見るのはいいけど、夜の面倒まで見たりしないよな・・」

冗談っぽくはあるが、少し本気で心配している様子で龍二が言った。

「何を馬鹿なことを。悪妻を追い出せたら志乃と結ばれる男だ。親友を失うようなことをするわけがないじゃないか」

菜緒子は愉快そうに笑った。龍二は菜緒子が景嗣に気があるんじゃないのかと心配して妬いてもいるのだ。何だか可愛くて愛しくなる。

菜緒子はあの時一度だけ景嗣と情事をしたことを密かに思い出していた。しかしもう彼とそのようなことをする気はない。

親友を失うようなことをするわけがないと言ったのが一番の本心である。ただし、親友よりずっと深い関係ではあるが・・。

志乃から話を聞いたと言って菜緒子は景嗣に悪妻から解放されるように優秀な弁護士を雇って訴えを起こすように提案をした。

景嗣はたくさん証拠写真を集めてくれた志乃の労やそんなことのために優秀な弁護士を紹介してくれる菜緒子に丁重にお礼を言った。

景嗣が龍二を雇ったという形で離婚、そして妻に対する慰謝料の請求を訴えた。応じなければミツバにこのことを情報提供すると脅してやった。

「オレも調べを進めるに連れて腸が煮えくりかえる思いだったぜ。奥さん、あんた、いくらなんでも酷過ぎやしないか」

と龍二はいかにも自分が調べたかのように妻が男と遊び歩いている証拠写真を見せつけた。
これを収集した志乃の気持ちを考えると本気で腸が煮えくりかえってくる。こんなふざけたことばかり繰り返すということは完全に景嗣のことを馬鹿にしくさっているということ。自分の最愛の男が馬鹿にされ、こんな仕打ちを受けているのを見続けた志乃は身を切られるような思いだっただろう。
よく堪えてこれだけの証拠写真を集めたものだ。
志乃のためにも負けるワケにはいかない戦いだ。

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