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女社長 飯谷菜緒子
第10章 志乃と景嗣
「この馬鹿娘が」と妻の父親はいきなり娘に平手を喰らわせた。

打たれて目が覚めたように妻は泣き崩れる。

「子は墜ろさせる。そんなことで許されるとは思わないが・・このとおりだ」

妻の父親は景嗣に土下座をする。母親もそれに続いて土下座をする。

「頭を上げてください。僕はもう疲れたんです。こんな微塵も愛のない生活は苦痛でしかない」

と景嗣はただ悪妻から解放されたいことを主張した。

「この甲斐性なしが。女房ひとつ管理できないでこんな好き勝手をさせるなんて不甲斐ないにも程があります。離婚は許しません。こんなスキャンダルなんていい物笑いです」

景嗣の母親は辛い思いをしてきた息子への思いやりなど微塵もなく世間体ばかりを気にして責め立てる。父親もそれに続いて息子を責め立てる。

こんな目に遭ってきたというのに酷い言葉しかない。元はといえばこの結婚だってこの両親に強いられたものだ。病気だった恋人もこの両親のせいで見殺しなされたようなものだ。

「もう沢山だ」

色々な思いが駆け巡って景嗣はついにキレた。

かくして景嗣は悪妻からは解放されたが家を追われるはめになった。菜緒子や龍二が想定したとおりだ。離婚のことはあくまでも内密にして、景嗣は病気に倒れたということで会社から姿を消した。

家を追われた景嗣は居間側で雇われて社宅に住まわしてもらうことになった。
その社宅で志乃とのつつましい暮らしが始まった。
世間から隠れるように生きる身だからあまり派手なことはできないが、それでも景嗣と志乃には幸せである。

「ありがとう菜緒子」

「幸せにな」

菜緒子と志乃の関係もまた密かに続いていくのである。
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