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女社長 飯谷菜緒子
第11章 禁断
菜緒子は光莉が結婚を決めたのだと悟った。

「その人というのは男性ですか?」

「はい」

「一緒になることを考えている」

「はい」

光莉は輝かしい笑顔で答えた。

光莉が決めた相手なら異論はないし祝福してあげるべきだと思う反面、決めた相手とは引き剥がされて政略結婚に応じるしかなかった自分の人生を思うと光莉が羨ましくもあった。


「松岡雪雄と申します」

光莉が結婚を約束した相手として連れてきた青年との会食の席。相手の青年を一目見た菜緒子は雷にでも撃たれたような衝撃が全身に走った。

雪雄というその青年は菜緒子がその目に焼きつけて誰に抱かれようとも忘れることのできなかった翔也の姿そのものだったのだ。

「雪雄さんもわたしと一緒に会社を継いでくださるって」と光莉は嬉しそうに言った。

ふたりで会社を継ぐこと。光莉は松岡に嫁ぐが、飯谷と居間側の名前は残し、仕事の時は光莉は今のまま飯谷を名乗ることなどをふたりで話し合って決めていた。

親が言うのも何だが、光莉は利発で優秀だ。
その光莉が選んだ男性だけあって雪雄も利発で人柄も良い好青年である。このふたりが継いでくれるのならば会社は安泰であろう。

「お義母様はそれで宜しいのですか?」

「はい、異論はございません」

雪雄も光莉と同じ境遇で父親を亡くしている。、からこの席には母親が同席している。

息子が決めた道だから異論はないし、悔いのないようにしっかりと選んだ道を進んで欲しい。ただ、飯谷や居間側の名前に傷をつけることがないように、継ぐからにはしっかりやりなさいと、とても出来た母親だと思った。どことなく自分に似ているところがあると菜緒子はこの母親に親近感を感じていた。

光莉と雪雄は大学で知り合ったとか、色々な話が出たが、菜緒子はその後のやりとりを全く覚えていなかった。

それ程に翔也と瓜二つの雪雄に出会った衝撃は大きかった。

体調は一向に良くなる気配を見せない。
時折変な咳が出て血を吐くこともある。
だが、そんな体調不良は人には見せずに菜緒子は凛として女社長であり続けた。

外面的には凛とした女社長を貫いてはいるが、内心は翔也に瓜二つのあの雪雄のことが頭から離れなかった。雪雄の素性を調べたい衝動に駆られるが、それは思い止まった。

もう一度会いたい。会ったらその時に本人の口から素性を聞きたい。

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