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女社長 飯谷菜緒子
第11章 禁断
菜緒子の内面はすっかり恋する乙女になっていた。

「何を考えているんだ、お前は。あの人は娘の婚約者だぞ。もう五十にもなろうというのに色情魔か、節操というものを知れ」

鏡に映った自分を厳しく叱責してはみるものの、直後には再び雪雄に会えた時のために若く美しく見えるように化粧をする始末に自分でも愚かで情けなくなった。

そんなことばかり考えてしまう自分が嫌になってオフを取って気分転換に街でも歩いてみることにした。
働き方改革を受けて社員たちにも休暇を取るように厳しく言っている手前、社長だって休暇を取らなければならないから、たまにはオフにするのもいいものだ。

こんなふうに街を歩いてみたことは今までなかったかも知れないから何か新鮮だ。平日の繁華街というものは休日のように無駄に人が溢れかえることもなく程良く人がいるのも気分がいい。

たまに休暇を取ってこんなふうに街を歩く・・普通にOLにでもなっていたらこんなかんじに平穏に過ごせる人生だったのかも知れない。

「すまんな、翔也。あたしはもう疲れた。もう何もかも忘れてこれからは平穏に生きていきたい」

もう翔也のことも透真のことも龍二のことも何もかも忘れて平穏に生きていきたい、それが今の菜緒子の望みだった。

だが、そうはいかなかった。
もし神様というものが本当にいるのだとしたら、とっても意地悪で運命で悪戯をして楽しんでいるのかも知れない。

新しく出来たお洒落なカフェで少しセレブな気分になってオフを楽しもうとすれば、ばったりと雪雄に出会ってしまう。

目が合ってからふたりが近づくまで、まるで恋愛ドラマのワンシーンのようにゆっくりと感じた。

「こんにちは、お義母さん」

「雪雄くんも今日はオフなのか?」

「はい。働き方改革で休暇を取れと煩く言われてしまうんで。休暇を取っても特にすることはないんですけどね」

そう言って笑う雪雄を見てまるで翔也の笑顔に思えてドキっとする。

「だったら光莉でも誘ってどこかに行けばいいのに」

「忙しいみたいでフラれてしまいました」とまたステキな笑顔を見せる。

そういえば何やら忙しいとバタバタしていたなと思う。女社長を継ぐという覚悟は本物で光莉はひと足早く居間側と飯谷の会社に役員として入っていた。

結婚したらすぐに雪雄も今の会社を辞めて居間側や飯谷に入ることになっている。


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