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牝獣の哭く夜
第10章 砕け散る矜持
「わかったわ……片桐専務のおっしゃるようにします」

 血を吐くような思いで、美貴は決意した。

(いい歳をした女が一度くらい、男と寝たからって……ちょっと我慢すれば終わるわ)

 自分に言い聞かせる。

 そのくらいのしたたかさを持って生きてきたつもりだった。

「おお、やっとウンと言ってくれたか。わたしと濃密な一夜を過ごしてくれるんだね」

 片桐が黒縁眼鏡の奥の三白眼を喜悦に輝かせた。
 弾力のある乳房を揉んでいた手のひらにも、力がこもる。

「そのかわり、一度だけって約束して下さい」

「ううむ。一度だけってのは、名残惜しいねえ。こんな素晴らしい身体を」

 薄紅色の乳首を指先で捏ねながら、片桐は不満げだ。

「約束してもらえないのなら、お断りします。

 もし何度もそうやって脅してくるようなら、わたしも覚悟して、諏訪部長にすべて話します。
 信じてもらえなくても、キャリアを棒に振っても、そうします。
 あなたたちを許しませんからっ」

 美貴は眦を決して、そう叫んだ。
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